- ダブルリミテッドとは?
- ダブルリミテッドの問題と原因と実例
- ダブルリミテッドを避けるための、4つの対策
「小さいうちから英語を始めると、日本語に悪い影響があるのではないか」と耳にすることがありますよね。
英語教育の「日本語への悪影響」への心配は、「ダブルリミテッド」について正しく理解していれば、不安が軽くなります。
- ダブルリミテッドとは何か?
- その問題点や原因
- ダブルリミテッドを避けるために気をつけたい4つのこと
これらの「ダブルリミテッド」について解説していきます。
この記事では一般的な日本のご家庭(すなわち日本在住で親は日本人、学校では国語を学んでいるようなお子さんのご家庭)向けに書いていますが、国際結婚のご家庭や海外移住されたご家庭の方にも、参考にしていただけます。
ダブルリミテッドとは|問題と原因と実例
- ダブルリミテッドとは
- ダブルリミテッドの問題点
- ダブルリミテッドの原因
- ダブルリミテッドの子どもの例
まず、ダブルリミテッドとは何なのか、その問題点や原因、実際のダブルリミテッドの子どもの例も合わせて、ご紹介します。
専門的な話も少しありますが、理解するために大切なことですので、どうぞご覧ください。
ダブルリミテッドとは
ダブルリミテッドとは、二言語を使用する環境にいるが、両言語共に年相応のレベルに達していない状態ことを指します。(セミリンガルもしくは限定的バイリンガルともいいます。)
例えば、日英バイリンガルの10歳の子どもが、どちらの言語も6歳くらいの能力であった場合、ダブルリミテッドの状態です。
逆に、日本語は10歳くらいで年相応、英語は6歳くらいの場合なら、ダブルリミテッドではありません。
「日常のコミュニケーションに問題がないから、ダブルリミテッドではない」とは、まだ言い切れません。注目すべきポイントは「学習に対して、年相応の能力があるか」なんです。
生活言語と学習言語
英語や日本語と一口言っても、ぞれぞれの人が持っている能力のレベルには違いがあります。
そのレベルは「生活言語」と「学習言語」の大きく2つに分けることができます。
外国語教育の分野では言語のレベルは「生活言語(Basic Interpersonal Communication Skills)」並びに「学習言語(Cognitive Academic Language Skills)の」二つに区別されています。前者は日常的かつ具体的で認知的要求の低いレベルの言語運用能力であり、言い換えれば日常生活レベルの言語力であり、後者は文脈への依存が低く抽象的かつ認知的要求度の高いレベルの言語運用能力で、これは中等教育から高等教育に耐えうる言語能力を意味します。
引用・転載元:
http://www.palkids.co.jp/palkids-webmagazine/tokushu-1804/
船津洋「生活言語と学習言語」(株式会社 児童英語研究所、2018年)
つまり
- 日常のコミュニケーションは、生活言語 → 低いレベル
- 学習のために必要になるのは、学習言語 → 高いレベル
と、二種類に分けることができます。
生活言語とは
生活言語は、日常のコミュニケーションで必要な言語のレベルで、比較的早く習得できます。
それは、まず「生活言語」ができるようになったということですね。
私たちが日常の生活で使っているのは、この生活言語で、低いレベルでしか言語を使っていないことが多いんです。
学習言語とは
それに対して学習言語は、読み書きする能力や、抽象的なものごとを理解したり、想像力をはたらかせたりする能力が必要です。
学習言語は生活言語より遅れて習得できると言われ、順番としては「生活言語→学習言語」と習得するのが自然な形です。
ダブルリミテッドと「学習言語」
ダブルリミテッドの見分け方として、注目したいのは「学習言語」です。
日本語や英語、どの言語においても「学習言語」が年相応に身についていなければ、ダブルリミテッドであると言えます。
両言語ともに「学習言語」が年齢以下の場合、ダブルリミテッドである。
一言語だけでも「学習言語」が実年齢まで上がっていれば、問題なし。
「英語と日本語ともに、日常会話ができる」という例でも、「生活言語はできているが、学習言語が年齢に伴っていない」場合は、残念ながらダブルリミテッドです。
ダブルリミテッドを回避するポイントは、多言語のうち、一言語(主に母語)以上の学習言語が年相応のレベルに追いついているようにすることです。
ダブルリミテッドの問題点
ダブルリミテッドの問題点は、思考力や理解力に影響を及ぼすことです。
簡単な例を出します。
「リンゴは英語でappleだよ」と言われて、明確にイメージが湧きますよね。リンゴを知らない日本人はいないですから。
でも「パラミツは英語でJackfruitって言うんだって!」と言われて、「ちょっと何言ってるか、分かんないっす」と思った人は、私だけじゃないはずです。(パラミツはフルーツの名です。)
知らないものや概念などに対して、イメージしたり理解したりすることはできません。
ダブルリミテッドでも同じで、日本語や英語、どの言語でも「頭の中の辞書」にその言葉がなければ、それは理解できない世界になってしまいます。
フルーツのような目に見えるものは、写真を見たり、食べてみたりすれば、まだ理解がしやすいものです。
しかし、子どもの学習は年齢が上がるにつれて、抽象的なものが増えるので、さらに理解が難しくなっていきますよね。そうなったときに「学習言語に問題がある」と気づくこともあります。
人は「頭の中にある辞書以上のこと」を思考できないし、アウトプットもできない。
また子ども自身に、どの言語でも不自由に感じてしまうことのストレスや、自信喪失などの問題にもつながる場合があります。
ダブルリミテッドの原因
ダブルリミテッドの原因として、様々なケースが考えられますが、
- 生活や言語の環境
- 間違ったバイリンガル教育
- 大人のダブルリミテッドへの理解不足
などが挙げられます。
子どもの生活環境
ダブルリミテッドでよく聞くのは、日本に住んでいる外国人児童の例です。
親と共に来日した子どもが、日本語での学校の勉強についていけず、母語での学習もしていなくて、適切な学習支援を受けられてない場合などが挙げられます。
似た環境として、海外で生活する日本人の子どもにも、注意が必要であると言えます。
また、日本在住でも、外では英語環境、家庭でも英語ばかりであれば、日本語が育ちにくい環境になってしまいます。
以前、海外在住の日本人のお母さんから、日本語教師の私に、こんな相談を頂きました。
息子さんは海外在住で、お父さんは現地の方、母語の英語は問題なしでしたが、簡単だと考えていた日本語習得がうまくいっていない様子でした。
小さい頃は、日本語でのコミュニケーションに問題を感じていなかったが、小学生へと成長するにつれて、日本語力が実年齢に追い付いていないと気づかれたようです。
実際の彼の日本語は「日常の会話は聞いて理解でき話せるものの、英語を混ぜないと日本語だけで自由に伝えることが難しく、日本語の語彙が少ない。読むのもスラスラとはいかない」という感じでした。
彼の母語は英語なので、この例はダブルリミテッドではありませんが、もし日本語が母語の子どもであったなら、ダブルリミテッドの可能性が十分にあると言えます。
極端で間違ったバイリンガル教育
日本在住の日本人で、日英のバイリンガル教育をしている方も多いですが、一般的な生活をしながら、英語も取り入れている家庭なら、そんなに心配はいらないとは思います。
しかし極端に間違った方法は、日本語の成長を遅らせるリスクがあります。
≪間違ったバイリンガル教育の例≫
- 日本語を排除して、英語だけの環境にしている
- 日本語の本は読まず、英語の本だけにしている
- 日本語母語の親が、英語だけでコミュニケーションするようにしている
など
「日本語は放っておいても育つ」というのは、間違った認識です。
さらに、母語の能力が低いと、他の言語能力も伸びにくくなることがあります。
実は、日本語を伸ばした分だけ、英語も伸びやすくなることにつながるんです。
日本語の理解力が高い子どもは、英語の伸びしろが大きいんですね。
「シャチは英語でkiller whaleっていうんだ!見た目はあんなに可愛いのに、意外と獰猛なのかな?」と思うのか、「シャチ?どんなん?」と思うのか、違いは歴然です。
率先して、母語を伸ばしましょう。
(母語の重要性は、下記「ダブルリミテッド対策」で詳しくご紹介しています。)
大人がダブルリミテッドに対して理解不足
「コミュニケーションには支障がなくても、実は子どもがダブルリミテッドだった」というケースがあります。ですが、周りの大人が問題に気づいてあげられないことがあるんです。
目に見えなくて分かりにくいので、問題に気づきにくいんです。
バイリンガル教育について、こちらの書籍「バイリンガル教育の方法」がとても参考になります。
この記事で紹介しているような、ダブルリミテッドについてや母語の重要性、効果的なバイリンガル教育の方法を「12歳までに親と教師ができること」として網羅した内容です。専門的な話も多いですが、かなり勉強になりますよ。
海外在住の方にも、日本国内でバイリンガル教育をしている方にも、オススメの1冊です。
ダブルリミテッドの子どもの例
ではここから、日本で暮らしているダブルリミテッドの外国人児童をご紹介します。
マイケル君は3年生。母語はフィリピン語、お友達もできて、日本語も話せます。
(中略)
日常会話には困らない、けれど、学習場面で困っている子どもたちはたくさんいます。学校に行くのがつらくなり、場合によっては不登校になってしまうこともあります。
参照元:子どもたちの現状 – NPO法人にわとりの会 https://www.niwatoris.org/current-status/
マイケルくんは、友達とのコミュニケーションには問題がありませんが、勉強となるとできなくなってしまうのです。
この例のポイントは「なぜマイケルくんが学校の勉強についていけないのか」です。だだの勉強不足で片づけられる話でしょうか?
このケースのマイケルくんは、
- 日常会話には、困らない日本語の能力はある → 生活言語は問題なし
- 学習までは、日本語のレベルが達していない → 学習言語は問題あり
ことが考えられます。
日本語の能力が、算数や社会などの教科を理解できるまでに達していないのです。
Twitterでも、このような例を聞きましたので、ご紹介します。
実際に日本語も英語も伸びないまま
大人になってしまったハーフの男性を知ってる仕事で出会ったけど、どっちの言語でも充分なコミュニケーションがとれなくて社会不適合者になってしまってる
お母さん(イギリス人)は、そんな 息子の状態に25過ぎても気付かなかったって…
親の目大切ですよ https://t.co/ts4nLfzLbQ
— まみ🐷英語系複業ワーママ (@workingmamamami) October 6, 2019
コミュニケーションで困っていなければ「まさか言語の未発達が原因で、勉強が苦手だったなんて思わなかった!」という方も多いと思います。
ダブルリミテッドが見過ごされてしまう可能性が大いにありますよね。
もしそうなってしまったときに、気づいて対策をすることができますので、「ダブルリミテッド」を正しく理解することは大切です。
ダブルリミテッド対策|バイリンガル教育で注意したい4つの点
- 学習言語を年相応に育てよう
- 「母語優先」を意識しよう
- 日本語の封印はやめよう
- 上手に英語も伸ばしていこう
万が一、ダブルリミテッドが疑われる場合でも、子どもはまだ言語の成長過程ですから、対策をすれば改善できます。
- 子どもがダブルリミテッドにならないように
- ダブルリミテッドが、すでに疑われる場合
対策したいポイントが4つあります。
母語の教育にも力を入れて、上手に第二言語と付き合っていくことが大切になります。
「学習言語」を年相応に育てよう
言語のレベルには「生活言語」と「学習言語」の2種類ありますが、一言語(母語)は必ず「子どもの年齢に合った学習言語を育てる」ようにしましょう。
日本で一般的な生活をしている子どもであれば、それは日本語になるでしょう。学校の勉強で理解ができる国語力がついているか、注意して見守りましょう。
子どものうちに海外移住した場合、習得できる第二言語(外国語)は、年齢によって以下のような傾向があるそうです。
生活言語 | 学習言語 | |
小学校低学年以下 | 早く身に付きやすい | 両言語とも時間がかかることがある |
小学校高学年以上 | 年齢が低い子より、身につくのに時間がかかる | 年齢が低い子より、理解が早く、効率的に習得できる傾向にある |
- 小さい子どもは、生活言語を身につけるのは簡単だが、学習言語は時間がかかる。
- 大きくなるにしたがって、生活言語は時間がかかるが、学習言語は効率的に習得しやすい。
ということは、母語の日本語の能力をしっかり伸ばしておけば、英語などは後からでも習得しやすくなるということです。
「母語優先」を意識しよう
人の言語能力の土台になるのは母語で、それがしっかりしていなければ、第二言語が大きく育ちにくくなります。
「母語で凡人な人が、第二言語になると天才になる!」ということは起こり得ませんよね。
母語を上回るほどの外国語のレベルには、達しづらいのが現実です。
どうしたらいいのか、結論は第二言語の伸びしろを増やすために、母語を伸ばすことです。
母語で語彙を豊かにして、理解力や論理性を高めることが、第二言語でも言葉や思考が豊かになる秘訣です。
「環境問題について、どう思うか」という問いに対して、日本語で意見が言えなければ、英語でも言えるはずがないことは想像できますね。
日本語の封印は絶対にやめよう
バイリンガル教育は、日本語あっての英語です。
母語の日本語は、私たちが思う以上に、大きな役割を持っています。
バイリンガル教育で「英語」ばかりにフォーカスすることは、度合いによっては危険です。
日本語の理解力がある子は、英語でも理解力が高くなります。
「国語ができる子は、算数や社会もできる」と聞いたことがありませんか?英語も同じです。
また、親子で楽しむ英語タイムは、コミュニケーションを増やし、英語体験のいい機会になりますので、私もオススメです。
しかし「英語が母語ではない親による、英語だけの語りかけ(日本語は封印)」は絶対に避けましょう。
母語でのコミュニケーションは、深い気持ちのこもった、かけがえのない愛情になります。
上手に英語も伸ばしていこう
ここまで「英語」に対して、厳しい意見になってしまったように思いますが、バイリンガル教育には、実は私も大賛成派です。
子どもと英語で遊んだりすることもあるし、英語の絵本を読んだり、動画を見たりすることもよくあります。
ダブルリミテッドのように、子どものバイリンガル教育には知っておきたい注意すべきことはありますが、早期英語教育には、たくさんのメリットもあることを実感しています。
- 小さい子どもは、英語を自然に吸収しやすい
- 早く始めるほど、その先に長く続ける時間がある
- 英語でのふれあいで、親子のコミュニケーションが増えた
など
英語は、子どもにとっても「楽しい時間の始まり」だったりします。
「英語が0か100か」みたいな極端なことではなく、英語にも楽しく触れて、日英ともにバランスよく上手に付き合い、また上達していけるといいですよね。
ダブルリミテッドの問題・原因・対策|まとめ
ダブルリミテッドとは「使用している言語の能力が、どれも年齢より低い」ことを言いました。
一般的な日本のご家庭であれば、過剰に心配しなくてもいいですが、「日本語を封印するほどの英語教育」は、ダブルリミテッドの心配が出てきます。
また、その他の環境で生活している子どもたちは、それぞれの状況とダブルリミテッドの関係を理解し、必要があればサポートすることが大切です。
多言語の環境にいる子どもたちには、このようなことに注意しましょう。
- 母語の「学習言語」を、年相応に育てよう
- 「母語優先」を意識しよう
- 日本語の封印は、絶対にやめよう
- 上手に第二言語(英語など)も、伸ばしていこう
ダブルリミテッドは、バイリンガル教育で知っておきたい情報のほんの一部です。
バイリンガル育児について「子どものためにもっと学びたい!」という方は、この書籍「バイリンガル教育の方法」がオススメです。
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わが家も一姫(7歳)と二太郎(3歳)と、おうち英語を楽しんでいます!
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